鰻の話

 石麻呂に 吾れもの申す 夏痩せに よしといふものぞ 武奈伎とり食せ

 痩す痩すも 生けらばあらむを 将やはた 鰻を漁ると 河に流るな

「右、吉田連老といふひと有り。字をば石麻呂と曰へり。所謂仁敬の子なり。其の老、為人
身体(かたち)甚(いた)く痩せたり。
多く喫飲(のみくら)へども、形飢饉(飢饉で痩せた人)のごとし。これに因りて大伴宿禰家持
いささかにこの歌を作りて、以て戯笑を成す。」
(万葉集 巻16-3853)読み下し文のみ、原文は以下に示す)

萬葉集[16](慶長元和年間刊)(国立国会図書館蔵)慶長元和年間
 我々一般の現代人にとり、難しくお堅いと言うイメージのある万葉集ではあるが、斯様な
「嗤笑歌(ししょうか 笑いの歌)」と言う見出しの付いた歌も存在する。
 此処に言う「武奈伎」とは現代の鰻を指すが、古の世界には無論の事「輸入品」など存在
すべくもなく、我が国に産出される個体の多くは胸の辺りに黄色を呈するものが多かった。
それゆえ「胸黄」からの変化であろうと言う説もあるが、定かではない。
 
 冒頭に戻るがこの笑いの唄、大伴家持が友人である吉田連老石麻呂を茶目っ気イッパイに
からかっている。これによるとその石麻呂と言う人物は結構な大食であったにも拘わらず、
相当痩せぎすの体形であったことが想像出来る。

「石麻呂さんに申し上げる。夏痩せに良く効くものがあります。鰻を獲って召し上がれ。」
「ガリガリでも生きている方が良いでしょう、(その痩せた軽い身体で)鰻を獲ろうとして
(河に入って)流されないようにね。」

 この二首目には本当に笑ってしまう。私は古代の人々に対し恋愛、喜びや悲しみ、出会い
や別れ、さらに斯様なユーモアまでを歌に詠みこんでしまう技量には驚嘆を禁じ得ない。
 実は天然鰻の旬は最も脂がのり、身も柔らかくなる秋から初冬に掛けての時期なのだが、
養殖のそれは盛夏の需要期に合わせるため水温、給餌を管理するので「時知らず」との別名
もあり年中美味であることに違いはない。
 この国において鰻は5000年も前の縄文時代から食されてゐたが、土用の丑の日に鰻を
食する習慣が出来たのは、平賀源内が活躍した安永年間(18世紀後半辺り)であることは
結構知られてゐる。 
 鰻はその魚体を背または腹から割き、各店秘伝のタレを付けながら焼く「蒲焼」と称する
調理法が一般的であるが、これが発明されたのは元禄年間(17世紀後半~18世紀初頭)
であると言われてゐる。それまでの時代はそのままブツ切りにしたものを串に差して焼いて
ゐた。この形が蒲(ガマ)の穂に似ていることから「ガマ焼き」などと言われてゐたそれが、
そのまま蒲焼となった。

ガマの穂、石麻呂達が食していたのもおそらくこれにそっくりな串刺しの切り身だった? 知らんけどwww
 関西地方、特に大阪では鰻丼を「まむし」とも言うが、鰻の蒲焼はやはり冷めると風味が
落ちる。当然ながら昔は電子レンジなどと言う結構なシロモノは存在しない。「どうしたら
時間が経っても蒲焼を熱いまま食べられるか?そうだ、炊立ての白米の間に挟み込んで持ち
帰れば熱いままで食べられるじゃないか。」おまけにタレの染み込んだご飯がこれまた美味
・・・かくしてこの「間蒸し」は誕生した。

 誰もが知る処ではあるが、夏場は誰でも食欲が落ちるが故に「食い養生」などと言う言葉
にもあるが如く夏の土用の丑の日には滋養の付くもの、特に頭に「う」の付くものを食する
よう奨励されて来たが、それは鰻だけではなく「うり」、「うどん」、「うし(牛肉)」、
「うま(馬肉)」だった。
 当時でも牛馬肉は「薬喰い」と称して密かに食されてをり、さらに猪肉は「山クジラ」、
「うさぎ(兎肉)」などはこれを鳥である鵜と鷺に見立てて半ば公然と食されてゐた。現代
でもウサギを「1羽2羽」と数えるのはこれに拠る。
 ご他聞に漏れず、江戸市中で当時星の数ほどにも増えていた鰻屋も夏場においての売上の
急落に頭を悩ませてゐた。

 此処で皆様ご存じ、平賀源内先生の登場である。売り上げの落ちた鰻屋が源内に相談した
と言う話はよく知られているが、本当にそんな出来事があったのか?まぁ、それに近い話は
あったのかも知れない。
 因みに「土用」とは立春、立夏、立秋、立冬のそれぞれ18日前(だったかな?)の間を
指し、決して夏だけのものではない。今では前述の影響もあり?一般には酷暑の期間と言う
イメージが定着してしまってゐるが、正しくは「夏の土用」と言うべきだろうと思うのだが、
うん?現代の「立夏」なんて5月の初旬じゃないか?如何に温暖化と言えども、その季節に
暑さに辟易することはあるまい。実は現代のそれは「秋の土用」を指してゐる。そりゃ8月
初旬なら夏バテの真っ最中だろう。
 では何故このような相違が生じたのか?これは偏に旧暦(太陰太陽暦)とグレゴリオ暦の
ズレに起因するものであるのだが、コチラはまた次回のノーガキとしたい。

 先に「コメは寿司とカレー以外に必要はない」とは書いたが、う~ん、鰻にもコメは必要
だね・・・こんなのがマダマダ後から出てきそうで怖いなぁ😅

(8.5.29記)おっと、今日は誕生日だった😝
        (チャールズ2世、ジョン・F・ケネディ、美空ひばり、内田百閒、大鵬、
         野口雨情、芦屋雁之助もおんなじ日だぞ)

 

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